目次
§1 おぞましい思いに悩まされる
§2 感覚的な思考が頭から離れない
§3 侵入思考の悩みは他の精神疾患でも生じる
§4 強迫思考のしくみと治療
§1 おぞましい思いに悩まされる
頭の中の考えに悩まされることが主な症状である強迫性障害では、悩まされる内容が人によって異なります。ある特定の言葉や映像が、頭から離れず苦痛だというタイプがありますが、この場合の特定の言葉や映像とは不快なものであることが多いようです。
駅のホームなど公共の場で、「誰かに不意に迷惑行為をしてしまうのではないか」とか、「もしこんなことをしたら、自分は大ケガをするだろうな」と、ふと思ったことはありませんか?
または、親友や大事な人に対して、道徳的に、または性的に不謹慎な思いが、頭によぎってしまったことはありませんか?
このように、本人が意図しないのに突然浮かんでくる考えを侵入思考といいます。これは、OCDの人に限らず、誰にでも起こりうるものです。アメリカの心理学者、エリック・クリンガーの調査(*4)では、通常、人は一日(起床している約16時間の間)に、約4,000の異なった思考を思い浮かべるそうです。そのうちの約500が、瞬間的な侵入思考だそうです。
しかし、OCDの人では、ある特定の考えが気になり、頻繁に頭に浮かび、脳裏に焼きついて離れないため、不快な感情とともに苦痛を感じます。そうなると、このような思考も強迫観念となってしまいます。
欧米の強迫思考に関する研究をみると、攻撃(暴力・ひどい言葉を発する)、性、宗教・道徳への冒涜、公衆の面前で不適切なことをしてしまうことへの不安が主なテーマとなっています。日本のOCDの患者さんにも、そのような悩みの人はいますが、欧米の人と日本人では強迫思考の内容に違いもみられます。
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たとえば、宗教に関する強迫思考では、欧米の場合、神や教会を冒涜し、悪魔を崇拝する考えやキリスト教の教えに反する考えに悩まされている事例が多く登場します(*1、2)。一方、日本では、宗教を信仰している、していないに関わらず、自分なりに、これをしないとバチが当たって不吉なことが起こりそうだと考え、警戒するといった考えにとらわれる人が多いようです。そのため、日本では、このような症状を「涜神(とくしん)恐怖」、「縁起恐怖」などということもあります。
§2 感覚的な思考が頭から離れない
はっきりと言語によって整理された考えになっていなくても、単に特定の言葉や映像が気になって、頭から離れない場合があります。また、特定の音が気になるという人もいます。エアコンの音が異常だったり、犬の鳴き声などがけたたましかったら、誰でも気になるものですが、OCDの症状としている場合では、普通の人が気にならない程度の音でも、気になってしかたがないのです。
また、少数の人ですが、皮膚に触れるものの感触や自分の体そのものに違和感を覚えて、とらわれてしまうタイプもいます。たとえば、胸のあたりに服が当たる感覚やズボンのすそ丈がぴったりかどうか、靴のサイズが合っているのかなど気になってしかたがないという人たちです。あるいは、 実際にはそのようなことはないのに、手にトゲが刺さったような気がしてしまう、という人もいます。
似たような体験をしたことがある人がいるかもしれませんが、OCDの人の場合、そのような感覚にとらわれる頻度、持続時間、強度が違います(*2)。そのため日常生活に支障をきたし、いつの間にかその感覚を忘れることが難しくなってしまいます。このような感覚的なOCD症状は、子どもにもみられます。
このような強迫症状では、気になる部分を何度も触る、あるいは実際にズボンの丈を変更するなどのように、目に見える行動へ発展することもあります。しかし、目に見える強迫行為はないものの、感覚的なものとして悩まされるケースもしばしばあります。
こういう人は、聴覚や触覚自体に問題があるわけではありません。しかし、このようなOCD症状が続くと、苦手なものに対して過敏に反応するようになっていきます。
§3 侵入思考の悩みは他の精神疾患でも生じる
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OCDの人のなかには、過去の出来事を思い出して、罪悪感にさいなまれたり、嫌な記憶がよみがえったり、当時の矛盾が今も気になってしかたがないという人がいます。また、その不快な出来事に関連したものやイメージが頭から離れないということもあります。
ただ、実際に、過去に自分が事件や災害に巻き込まれて心的外傷(トラウマ)注*になってしまった場合は、OCDではなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のように別の病気であることも考えられます。心的外傷後ストレス障害の人の侵入思考は、言葉による思考よりも視覚的な映像であることが、はるかに多いという調査結果があります(*3)。
うつ病でも侵入思考に悩まされることがありますが、うつ病の場合、考えが否定的な傾向にあります。また、うつ病、OCDに限らず、反芻(はんすう)といって、同じ考えをずっと繰り返してしまう人がいます。
全般性不安障害の患者さんも、否定的な思考を、一般の人よりもコントロールできないと感じることが多いそうです。ただ、全般性不安障害での心配よりも、OCDの強迫観念は、侵入的で、自分の意に反して生じる印象が強いそうです。
§4 強迫思考のしくみと治療
このような強迫症状では、思い浮かぶ強迫観念に対し、それを何とかしようと頭の中で考えることも含め、何らかのアクションを起こしていることが多いことがわかってきました。かつては、強迫思考の症状は、行為の伴わない強迫観念と考えられ、純粋強迫観念という呼び方もされていましたが、近年の診断基準では、考えること(思考)も強迫行為に含まれるようになりました。
そのような反応としての強迫行為には、次のようなものがあります。
中和 強迫観念の悪い内容に対し、あえて逆によいことを行い、打ち消そうとしたり、不安を減らそうとしたりするものです。目に見える行為の場合と、頭の中の思考で行う場合とがあります。
儀式 思考での儀式は、頭の中でお祈りや特定の言葉を唱えるような行為をするものです。
回避 強迫的な考えを連想しそうな場面をなるべく避けようとする行為です。
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これらの強迫行為をすることで、強迫観念が強まるという悪循環に陥ることがあります。強迫思考の場合、打ち消そうとすればするほど、意識すればするほど、かえって頭から離れなかったり、頻繁になったりするという厄介な性質(パラドックス)があるのです。
こうした症状に対する治療は、一般的な強迫性障害と基本は同じで、薬物療法と認知行動療法になります。
認知行動療法では、図のように5つの要素が影響して悪循環になるというモデルが考えられています(*4)。
古典的な治療法に、思考中断法(もしくは思考停止法)というものがあります。不快な考えが思い浮かんだら、腕に巻いておいた輪ゴムをパチンと鳴らすなどして、思考をストップさせるという方法が考えられていました。この方法で、ある程度効果があったという人もいますが、現在では、根本的な解決にはならないと考える専門家が多いようです(*2)。
意識することのマイナス効果として、よく紹介されるのが、白クマ効果という実験です(*2)。これは、「ほかのことは自由に考えてもいいですが、白クマについてだけは、考えないようにしてください」と指示されると、誰でも、白クマが頭をよぎってしまうというものです。普段、白クマのことなど思い浮かべることがない人でも、「考えてはいけない」と意識をすることで、考えてしまうのですね。
強迫思考の内容は患者さんによってそれぞれなので、治療についても、細かい部分は人によって異なります。たとえば、暴力や性に関する考えが浮かんだだけで、自分が汚らわしい人間であると感じたり、頭に思い浮かんだだけで、いつか実行してしまうのではないかと不安になるタイプの患者さんがいますが、そのような人の場合、思い浮かぶ内容に意義があると解釈し、その 意義が重大であると感じるほど悪循環を繰り返すことになります。これに対しては、それが重大なのかどうかを検証するという治療法があります。
また、そうした考えに対して恐怖心がある場合は、曝露(エクスポージャー)を用いる方法が考えられます。曝露などの治療によって、強迫観念の意義は取るに足らないと思えるようになれば、感情が脅かされることも徐々になくなり、頭から離れなかった思考も単なる雑音に過ぎなくなっていきます。
また、このような強迫思考では、自然と思い浮かぶ侵入思考と、それに反応して自ら行う強迫行為としての思考とがあるので、その区別を理解するようにします。そして、侵入思考は、程度の差こそあれ誰にでもあるものなので、そのもの自体なくすのは無理があります。無理に否定せずに、あるがままに受け入れられるようになればよいのです。
中和のように反応して行う思考も、習慣になっていると、ついつい自動的に連想してしまうため、自分でコントロールすることが難しい面があります。そのような場合も、区別を意識し過ぎると、かえって頭から離れなくなります。
その人にあった対処法を、専門家とともに探していけることが理想的です。
*注釈
*トラウマ――心的外傷。事故、犯罪、虐待、災害、いじめのように、外からもたらされた強い衝撃を受けて、心の働きに傷を負ってしまうこと。トラウマによる精神疾患には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のほかに、急性ストレス性障害(ASD)がある。
*参考書籍
[1] リー・ベア/著 渡辺由佳/訳 『妄想に取り憑かれる人々』 日経BP社 (原著2001年、邦訳2004年) 一般向け
[2] スタンレイ・ラックマン/著 作田勉/監訳 小林啓之、菊竹真理子、金坂知明、末岡瑠美子/ 訳 『認知行動療法:科学と実践 強迫観念の治療』 世論時報社(原著2003年、邦訳2007年)専門家向け
[3] デイビット・A・クラーク/著 丹野義彦/監訳 杉浦義典、小堀修、山崎修道、高瀬千尋/訳 『侵入思考―雑念はどのように病理へと発展するのか』 星和書店 (原著2005年、邦訳2006年)専門家向け
[4] Christine, Ph.D. Purdon, David A. Clar, Overcoming Obsessive Thoughts: How to Gain Control of Your OCD, New Harbinger Publications: (2005年)
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